2003年04月09日(水)  国家による犯罪
 イラク戦争については毎日のようにメディアが喧伝しているので、知らない人はいないと思われるが、そこで気付いたことをひとつ。
 どこの主要なニュースでも必ず「マーケット情報」として、東京やロンドン、そしてニューヨークの株式市場の平均株価や為替レートが発表されている。株価や為替というものは言ってみれば、何も実態的な基盤のないところに無理やり基盤を作る作業から成り立っているものであるから、どうしても不安定で、世評に左右されがちである。
 当然、その不安定さを利用してを自らの利益のために暗躍する者が出てくる。証券取引法などではそういった「犯罪行為」を「風評操作」などとして取り締まり、「自然な」流れに任せた状況をなるべくセッティングしようとした、特定の国家および国際社会の決まりごとであるとおもう。

 そこで、現在の状況で為替相場を見てみると、いかにイラク戦争の進捗状況の報告によって為替相場や平均株価が上下しているかが一目見て判る状態になっている。例えば、イラク戦争前の1週間は「本当に始まるのだろうか」といった不安定な心理が席巻していたために、株価はかなり下がり、ドルに対して円高が異常なまでに進んでしまった。そして、イラク戦争開戦で、英米軍が「緒戦において快進撃を続けている」と報道されるや、「戦争は早期に終結する」との見方が強まり、「戦後のイラク石油市場侵略」を担うであろう業種の株が買われ、平均株価は一気に上昇した。その後、イラク軍の抵抗が強まり、「戦争は長期化するかもしれない」との見解が示されると、逆に株価はまた下落した。
 このような状態を見るだけでも、戦争というファクターが経済活動と不可分に結びついていることが良くわかる。株式の世界での数字は生き物であり、世の中の情勢を何よりも鋭く反映したものである。

 しかし、それがもし、国家的に操作されたものであるとしたら?
 こういった疑問はどうしても出てこざるを得ない。と言うのも、戦争報道というのは、報道する側が安全を期すならば結局のところは軍情報部の「大本営発表」に頼らざるを得ないわけであり、また、逆に「真実を伝えよう」とするならば、報道者自身が死の可能性と常に隣り合わせで行動しなければいけない(実際、11人のジャーナリストがこれまでのイラク戦での戦闘で死亡している)。報道する側をなるべく危険に晒させないためには、ある程度は軍の命令に従わなければいけない。一方で近代以降の戦争は、諜報活動を主とした情報戦が戦略の重要なファクターとなっている。故に軍の側から一般メディアに流される「ニュース」は、事実だけではない。敵側の油断を誘うための誤報や、メディアの目を真に戦略の意図するところから反らす意図をもった情報も多く流される。
 そして、そういった「人為的に操作された情報」を元に株式市場が動いている。これは「軍=国家側による風評操作」に当たるのではないのだろうか?私はこう問い掛けたい。

 国家が、特にアメリカ合州国のような資本主義の化け物階級によって支配されている国家が戦争を起こす時は、勿論「自国が攻撃に晒された時」も入るであろうが、今回のイラク戦争などは、イラクがアメリカに直接的に何をしたというわけでもない。こういう場合の戦争は、指令する側(=アメリカの上流支配階級)の権益を増大させるためなのだ。軍はその命令を忠実に実行しているだけの手足にすぎない。
 今回のイラク戦争でそういったアメリカの一部の人間が手に入れるのは、世界第二の埋蔵量を持つイラクの原油だけではない。前述したような軍の「戦時下公式発表」によって乱高下する株価から得られる莫大な差益も、その一部であり、実のところはそれが最も大きい「うまみ」なのではないだろうか。
 
 勿論、軍から発表される情報のすべてが、こういった「風評操作」を意図したものである、ということはできないが、少なくとも合州国の権力の中枢にいる者や、そこに近しい者には、軍の情報や行動計画が前もって知らされている場合が多い。それをもとにして前もって株を売ったり買ったりすることは、彼らにとっては朝飯前の金儲けだ。この行為は言ってみれば、「権力者と軍部がグルになったインサイダー取引」に当たるのではないだろうか。

 ここで私が述べたいのは、「国家による犯罪は犯罪ではない」という昔からの諺だ。個人が会社側とつるんで株価を操作すれば、それは犯罪になって罰される。しかし、国家が軍とつながって株価を操作しても、それは犯罪にはならないのだ。
 こうした国家による犯罪行為をできる限り阻止するべく創設されたのが国際連合であり、また、国際司法裁判所であるなのに、アメリカという国はそれを全く踏みにじった行動をしているのだ。
 ナチスと言う国家は第二次世界大戦中にユダヤ人だというだけで大量殺人を犯した。ヨーロッパの国々はこれを反省し、「国家による殺人」を厳しく禁止し諌め、死刑廃止を訴えてきた。しかるに、アメリカという国は「国家による殺人」である死刑を未成年者にまで適用し、そして、戦場ではアメリカ国籍をもたないグリーンカード保持者を最前線に立たせ、次々と「殺して」いる。彼らが今やっていることは、今や20世紀最大のしこりとも言えるナチス・ドイツとどのように違うのだろうか?

 ブッシュの唱える「イラクの民主化」などという美辞麗句に惑わされてはいけない。彼らは結局のところ「国家による殺人」をやすやすと犯し、イラクに「アメリカの雛型」を作ってそこから甘い汁を吸おうとしているだけなのだ。


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